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7282内堀満莉恵 1.自然破壊―その後に待つもの これまで人間は、ありとあらゆる「自然」に対して良かれ悪しかれ手を加えてきた。人間は〈欠陥のある生物〉として、生き残るための不可欠の手段として文化(技術や道徳を含む)的存在たらざるをえないように進化してきた註1 、だがしかし、このことは結果として地球温暖化や環境汚染などから成るエコロジー的危機を招くこととなった。 地球温暖化や、環境の汚染は最終的にはエコロジー、つまり生態に影響を及ぼす。例えば、殺虫剤による土壌汚染はまずそこにいる昆虫を害虫から益虫まで皆殺しにし、さらに雨によって流れ出たその毒は川や海へと流れ、そこにいる生物にも害を与える。これは明らかに生態系を破壊する行為であり、このことから、すべての環境問題はエコロジー的危機につながっていくものと考えられる。現在、人々の環境に対する関心が高まりつつあるが、実際に何をすればいいのか分からない、と言うのが実状であろう。では、どうすればエコロジー的危機の広がりを回避することができるのだろうか。 2.エコロジー的危機 「エコロジー的危機」というと自然に危険が迫っているのであって、人間には関係ないだろうと考える者もいるだろう。しかし、エコロジー的危機は、「人間と自然との関係の危機」を表す。レイチェル・カーソンが『沈黙の春』の中で植物や動物といった、あらゆる生物の形態や習性を作り上げたのは環境であり、生物が環境を変えるという逆の力はごく小さなものでしかなかった註2 としているが、エコロジー的危機とはまさにこの関係が危機にさらされている、ということを示す。 では、エコロジー的危機を作り出したのはいったい何なのだろうか。それはやはり、人間であると言わざるを得ないのではないだろうか。人間は進化の過程で、様々な自然には無いものを作り上げた。そしてそれらを自分たちのより良い生活のために利用し、それが後にどんな害を成すかもろくに考えずに、刹那的に生きてきた。そのツケとも言えるものが今日大きく取りざたされるようになった、いわゆる「環境問題」なのだが、これが解決できるかできないかによって、これからの人間の存亡に左右されるといっても過言ではない。 3.人間に忍び寄る影 先ほど述べたように人間は様々な自然に無いものを作り上げてきた。その中でも化学薬品は、放射線と同じくらいの危険な作用を及ぼす。放射線に関しては、我々人類はこの地球に誕生したときからずっと放射線を浴びながら生きており、宇宙から宇宙線と呼ばれる放射線を浴び、大地からも放射線を受けている。さらには、放射線を出す物質は植物にも、我々人間の体内にも存在しており、我々はこれまでこうした「自然放射線」と共存しながら生きてきた註3 。だが、化学薬品は決して自然にあるものではなく、人間の手によって生み出されたものである。人間は自らの手で、自然から生まれたものと同じかまたはそれ以上の力を持つ物質を作り出してしまったのだ。有害な物質は蓄積されていくと、やがては生殖細胞を突き破り遺伝子そのものを破壊し、変化させる。化学薬品も例外ではなく、放射線と同じように突然変異を引き起こす可能性を持っている註4 。遺伝子レベルに悪影響を受けると、子孫に次から次へと悪影響が及ぶことが考えられる。つまり、「虫退治」という些細な目的から、先祖から受け継いできた生命の輪を危険にさらすこととなったのだ。 4.人間の介入の限界 人間は、このような自らの生命の危険に対し「医療技術の向上」という形でこの危機を脱しようとしている。事実として医療技術の進歩により、また有効な薬剤の発見・使用によって多くの国で平均寿命が延びている。死亡者の中には、偶然の不幸などで死亡するケースもあるが、遺伝的性質が劣っていることによる死亡のケースも少なくない註5 。その原因としては、先ほど述べたような放射線や化学薬品によるものが考えられる。 近年、こうした遺伝的な問題や、他の様々な問題を解決するために人間はついに遺伝子にまでその手を伸ばしてきた。その最たるものとして、クローン技術や遺伝子組み換え技術に関する研究が挙げられる。これらの技術の成功・実用化は、食物の安定供給や医療品の製造、不妊夫婦の子供の出産、移植用臓器の作成、希少動物の保護・再生、実験用動物の革新などを可能にするかもしれない註6 。だがしかし、これらの技術は安全面や倫理面において万全ではなく、現実に導入されるにはまだまだ問題が山積みの状態である。さらに、たとえこれらの技術の安全面や倫理面での問題が解決されたとしても、遺伝子に手を出してしまうことで、環境問題のように、のちに新たなる問題が発生し、それがさらなるエコロジー的危機を生み出すということは考えられないだろうか。そのことを考えると、そう簡単にこれらの技術を導入することはできず、我々人類の自然への介入はここでストップすることとなるだろう。 5.遺伝子に手を出した人間 しかし、最初に述べたように人間は〈欠陥のある生物〉であり、生き残る手段として文化的存在として進化してきた。よって、実際にここでストップするとは限らない。今現在も食糧不足や医薬品不足にあえいでいる国や地域も多くあり、人道的な立場から考えて、早急に問題を解決すべくそういった技術の導入を選択することもあるだろう。だが、やはり遺伝子に手を加えることは、人間が自然の力が作用していた部分に踏み込むことを意味し、人間と〈br〉自然とのバランスを崩すことになる。 遺伝子操作の実例として、2006年3月にアメリカで心臓病にかかりにくい物質とされているオメガ3脂肪酸を大量に持つ豚が誕生した。研究者は豚肉で技術を改良し、鳥肉や牛肉にも応用することを目指している。さらに、この研究過程で人間の特に心臓に関する病気の研究もしていくことを視野に入れている。このようにバイオテクノロジー農法の分野において遺伝子操作に関する研究はあるところまできている。しかし、その裏にはやはり企業同士の「健康に良く、値段が安く、味の良い、消費者の求めるような生産物を作る」という課題を巡って競合が繰り広げられている註7 。つまりは、最終的に自己利益を追求した遺伝子研究なのである。そのように自己利益のため〈br〉にまたしても自然に手を出すのであれば、他に遅れをとるものかと農薬を振りまいてきたことと同じことになり、エコロジー的危機は広がりを増すだけであろう。 6.エコロジー的危機の拡大を回避するために 以上のように、本論では環境問題は最終的にエコロジー的危機につながる、ということを人間の生命が受ける影響、という観点から議論を進めていった。人間はよりよき生活を求めて通常生き物が手を出せない「自然」に手を加えていった。そして長い年月の間に、人間も自然の一部であり、自然があるから自分たちが生きていける、ということを忘れてしまい、自然を征服することで生きていけるという自己中心的な考えを持つようになってしまった。これが現在の環境問題を生み出したと考えられる。過去に起こした失敗を過去に戻ってやり直すことはできない。だからこそ、同じ失敗を繰り返さないようにすることが必要となってくる。 そのためには、エコロジー的危機の原因や兆候を見逃すことなく、あらゆる面からこれからしようとしていることの調査をし、問題点が無いかを何度もチェックすることが有効になってくるだろう。また、これから我々が取っていくべき他の防除方法は化学的防除でなく、生物的防除であり、暴力によって自然を屈服させるのではなく、できる限りの注意を払いながら自然の営みを人間の都合の言いように導いていくことが我々のとるべき道なのである註8 。エコロジー的危機は自然が人間に与えた人間と自然との関係を理解するための最後の警告なのではないだろうか。生命とは、私たちの理解を超える奇跡であり、それと格闘する羽目になっても、尊敬の念だけは失ってはならない。このことを人間が理解できたときエコロジー的危機の拡大は回避されるのではないだろうか。 7.まとめ 人間は今岐路に立っており、その選択は人類の存亡に関係してくる。環境に対する機運が高まっている現在、我々は自然から与えられた課題に真剣に向き合わなくてはならない。暴力を捨て、同じ自然に生きるものとして接することが求められているのだ。人間対人間の暴力も治まっていないような世界情勢で自然に対する暴力を捨てることは困難かもしれないが、人類の存亡のかかった問題としてエコロジー的危機に対応しなくてはならない。 【註】 (1)マインベルク、3頁引用。 >>>本文へ (2)カーソン、16頁参考。 >>>本文へ (3)放射線影響協会、「放射線の影響がわかる本」参考。 >>>本文へ (4)カーソン、18頁参考。 >>>本文へ (5)駒井、486−487頁参考。 >>>本文へ (6)科学技術庁、「クローンって何?」参考。 >>>本文へ (7)AP通信、「健康にいい脂肪酸を含む豚肉を遺伝子操作で作り出す研究」参考。 >>>本文へ (8)カーソン、225頁参考。 >>>本文へ 【参考文献】 (1)レイチェル・カーソン (青樹簗一訳) 『沈黙の春』 新潮社、1987年。 (2)エックハルト・マインベルク (壽福眞美、後藤浩子訳) 『エコロジー人間学―ホモ・エコロギクス―共−生の人間像を描く』 (3)駒井卓 『遺伝学に基づく生物の進化』 培風館、1963年。 【ネット資料】 (4)科学技術庁 「クローンって何?」、オンライン、「文部科学省ホームページ」、インターネット、 http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/shisaku/kuroun.htm (2007/7/30にアクセス) (5)(財)放射線影響協会 「放射線の影響がわかる本」、オンライン、「放射線影響協会」、インターネット、http://www.rea.or.jp/wakaruhon/mokuji.html(2007/7/30にアクセス) (6)AP通信 「健康にいい脂肪酸を含む豚肉を遺伝子操作で作り出す研究」、2006年3月26日、オンライン、「HOT WIRED JAPAN」、インターネット、 http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20060328303.html(2007/7/30にアクセス) |