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自閉症と心理学
7587 川口翔 1.はじめに
自閉症という病気は多種多様である。彼らが起こすさまざまな行動、思考は、自閉症者の症状として我々が観察することができる。自閉症者であると診断する基準として、DSM-Ⅳ註1 によって、自閉症者であるかもしれないというおそれがある人に対して、定義付けることができるのである。 自閉症という病気は、その患者に対して、研究者たちがさまざまな考えを持っている病気のひとつと言えるだろう。その研究者たちは、彼らの病気そのものを追及する、原因の解明をするために、さまざまな分野から多くの知識を用いて研究するのである。 これは、確かに有効な手段である。 自閉症者がなぜ、言語的・非言語的コミュニケーションを得意としないのか、という症状の原因を、医学的な研究により、追求することなどが、例として挙げることができる。医学的な研究、特に、遺伝的知見による研究が、広く一般的に進められた。 遺伝的研究はもはや常識とされ、自閉症が、生物学的異常であるということは知られてきた事実である。 しかし、自閉症の原因は、明らかとなっていないのである。遺伝研究による研究成果が公にされても、反論が出たり、追試をすると違ったデータが確認されたりすることがあるのである。 2. 『自閉症の理解』第3章 要約
遺伝研究の他に、自閉症に関わる問題として、胎児期・出産時の障害、環境因子が考えられる。 例として、一卵性双生児でも、2人とも自閉症になるとは限らないということが挙げられるが、これは彼らが母親の子宮内の環境によって生じる問題であると予想される。 もう一つの自閉症研究として、神経学的なものが存在し、これによって自閉症は脳の発達異常によって生じるとも考えられる。神経学的研究は、自閉症の原因を、小脳・大脳辺縁系・大脳皮質、の3つ部位の異常により障害が生じるものと考えられている説もあるが、局部的な問題だけではなく、むしろ脳全体に問題があるという報告もある。 3. 問題の提起
以上のことは、『自閉症の理解』第3章「原因に関する最新の医学的研究」において述べられていることを要約したまでだが、上記のように、自閉症の原因に対する意見は十人十色であり、どれもが証拠に基づいて意見しているものでもある。 自閉症の原因をこのように多くの研究者たちが、個々に自分の意見を言い、他人の意見の問題点を指摘し、理解を深めていくことは、時間はかかることであるが、有効な手段であると思う。 しかし、同書5章「治療・教育」の中で、「自閉症が心理的問題によって生じるのではなく、医学的な問題で起こるということがわかってきてから・・・」註2 と述べられてある。 ここでは、心理学的な考えがどのようなものかを明らかにせずに、「自閉症は医学的な問題で起こるとされているから、医学的に治療を行いましょう」のようなことが考えられているのである。 私は、自閉症という不思議な病気に対して、心理学を用いた研究が、最も適しているのではないかと思う。 心理学とは、科学的な方法を用いて、「観察される行動」から「こころの行動」を研究される学問である。 4. 心理学
上述したように、自閉症に対する研究で、研究成果を発表したが、追試をしたら違った結果が検出されてしまい、その研究は認められない、ということがある。 しかし、科学的な方法で研究される心理学の分野では、「再現性」や「反証可能性」という性質を含むので、同じ方法を他者が繰り返しても同じ結果が出るか、出ると考えられれば、新たに得られた知識や研究結果が信用されるのである。 この科学的な性質を含む心理学を用いることによって、他者による追試で、違ったデータが出ることもないのである。 さらに、医学的な立場から自閉症を観察しても、彼らが起こす行動や発言などは、ただの「数値」として記述されるだけに過ぎないのではないだろうか。 心理学的な立場から触れることによって、彼らが起こす言動を観察するとき、その言動から、彼らの言動を起こすにあたった「こころの動き」を科学的な方法で研究するのである。我々は彼らの「表面的言動」を理解してあげるのではなく、彼らがその言動を起こすにあたった「こころの動き」や、彼らが彼らのまわりの世界観を理解する仕方を理解する必要があると思う。 心理学という学問は、「ひとの心理を読み取ることができる学問」ではない。心理学を専攻しているからと言って、人の考えていることすべてがわかるはずがない。心理学というものは、起きた行動のもとになった思考や脳の動きが必ずあるだろうから、その原因である「こころの動き」を研究する学問なのである。 心理学によって、自閉症者の思考や脳の動きを、彼らが起こした言動から研究することで、行動→思考を結果→原因と置き換えて考えることができるのである。 「自閉症の原因」を心理学によって考えるのではなく、「自閉症者が起こす行動の原因」を心理学によって考えていくのである。 自閉症の原因追求はこれからも様々な意見が飛びかい、非常に複雑な研究になることは必至であるし、もうすでにそのような状態に陥っているかもしれない。 様々な思考がひしめく原因追求の中で、心理学が自閉症に働きかける重要性がより多くの研究者に理解されると、さらに多種多様な考えが広まっていき、自閉症の理解につながる大きなツールとして利用できると思う。 5. 治療・教育 自閉症の原因追求に対して、多くの方面から研究されていることは上述したが、治療・教育に関しても同じと言えるだろう。 自閉症の治療は、変化してきた。 初期は、力動精神医学註3 的な遊戯療法やグループ治療が行われていたが、現在は、医学的な治療も取り入れられ、重要視されている。医学的な面からの介入は、薬による治療である。しかし、この治療方法は、必ず自閉症を治してくれるものではないし、一時的に症状を抑えるだけにとどまっているのである。 現在、最も効果的な治療方法として考えられているものは、行動療法である。 行動療法とは、問題とされる行動を減らしたり、望ましいとされる行動を増そうとする治療方法である。つまり、自閉症者の起こす行動は、すべてが彼らにも我々にも不利益なものではないのである。高機能自閉症者註4 はときに風変わりなことに興味を持っている。健常者には理解しがたいところに興味を抱き、彼らの会話は健常者と異なる。行動療法のひとつである、交流的治療では、彼らの興味のあることを話題にし、その話題をさらに広げていく。この治療は健常児との会話の中で行うもので、はじめは自閉症者が興味を持たない会話なのだが、会話の中に自閉症者が興味を抱くことが入っていたら、会話はさらに広がり、健常者との関係もより深くなると考えられる。 このように、心理学による療法は、自閉症者を「治癒」させようとするものではなく、「訓練」させようとするといえよう。 彼らを無理矢理「治療」にしばりつけて治すのではなく、彼らの好きなこと、興味のあることを広げて、健常者たちと興味を共有する「訓練」をすることによって、彼らは治療に嫌気をさすことがなく、治療を喜んでするだろう。 5. まとめ 自閉症は不思議な病気である。この病気は完全に治癒することがない病気である、と発見から半世紀以上もたった今でも考えられている。しかし、彼らに対する考えや治療方法は大きく変化をとげてきた。その中でも心理学の思考が、自閉症という病気に働きかける重要性を理解していくことが大切だと思う。 註1 「DSM-Ⅳ」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders;精神障害の分類と診断の手引きー米国精神医学学会) >>>本文へ 註2 『自閉症の理解』第5章「治療・教育」127頁。 >>>本文へ 註3 『自閉症の理解』第5章「治療・教育」126頁。 >>>本文へ 註4 『自閉症の理解』第2章「自閉症候群の定義」48頁。 >>>本文へ 【参考文献】 G.B.メジボブ、L.W.アダムス、L.G.クリンガー、(1999)『自閉症の理解』学苑社。 |